【演劇】演技のコツ:「役になりきる」とは?

演技のコツ

役になりきった演技って、難しいなあ……。

そもそも役になりきるってどういうことか、考えてみよう。

このページでは、演劇(ストレート)における演技の上達のコツを解説しています。

この記事の結論としては、「役になりきっているように見せかける、ハリボテの演技が大事」ということになります。

役になりきることそのものよりも、演技をしていて「役になりきれ」と言われたときの考え方の参考になれば良いと思います。

具体的な考え方を説明していきます。

1.「役になりきれ」の意味

演技をしていると、演出家から「もっと役になりきれ」と言われることがあるかもしれません。

これを言う人の考えはだいたい、演じるキャラクターがまるで自分に乗り移ったかのように、気持ちの変化をリアルに表現してほしい、ということだと思います。

乗り移るのですから、造形は役者本人だけど、中身や仕草は登場人物のものであり、そこに役者本人の感じを出してはいけない、ということですね。

2.なりきるのは難しい

しかし、そういった意味で役になりきるというのは、非常に難しいことです。

まず、「人」の形成には、膨大な過去が大きな影響を与えます

過去とは、その人がそれまでに経験してきたこと、その人がそれまで過ごしてきた環境などが主なものです。

様々な経験や環境が、その人の中身をつくっています。

それは「○○を経験したから△△な性格をしている」のように短い文章で説明できるほど単純なものではなく、深層心理で複雑に絡み合ってできていくものです。

例えば15歳の登場人物がいるとすると、本来であれば15年分の様々な経験・環境の蓄積があるはずで、その全てがその人物を形作っています。

そんなものに、たった数日でなりきることができるでしょうか。

まず不可能です。

台本の台詞だけじゃ、15年の経験は読み解けないね…。

その作品がフィクションであるなら、そもそも登場人物は架空の人物です。

架空の人物にはほとんど過去がありません。

15歳のキャラクターでも15年分の過去はなく、脚本家が数時間から数日程度で創り出した、いわば中がからっぽの人物なのです。

演出家は過去のある人物になりきることを求めています。しかしそれは数日じゃ不可能なことですし、そもそもキャラクターには過去がないから不可能だということです。

3.演劇はハリボテ

じゃあどう考えたらいいの、ということになりますが、先ほど書いたのは「キャラクターになりきる」のは不可能だということです。

それに対し、たった数日で創り上げられた人物の情報でもできることがあります。

それは、「なりきっているように見せかける」ことです。

長年の蓄積がなくても、数日で得た浅い情報でも、見せかける程度ならできます。

もっと端的に書くと、本物ではなくハリボテで良い、ということです。

それってどうなの…?

と思う方もいるかもしれませんが、そもそも演劇とはハリボテです。次の例を見てください。

  • 大道具 … 表はお城の中のように見えても、裏に回れば、木材で組んである
  • 小道具 … 本物の銃を使うことはない
  • 音響 …… 環境音を流したり、効果音を入れたりする
  • 照明 …… 屋外のシーンで、日中の明るさを照明で表現する

つまるところ、これらはすべて「ハリボテ」ですよね。

演劇におけるほとんどの要素はハリボテなのです。言い方を選ばなければ、表面だけ取り繕って、お客さんを騙しているのです。

それなら、演技もハリボテで良いですよね。

むしろ、ハリボテの中で演技だけが本物だと、浮いてしまいます。

中身のないキャラクターを、中身がないのがわかりにくいように、表面を取り繕うのが演技なのです。

4.「役になりきれ」と言われたら?

では、演出家から「役になりきれ」と言われてしまったら、どうしたら良いのでしょうか。

そのダメ出しの意味は初めに述べたところですが、なぜそのダメ出しが出るかというと、理由はおそらく次のどちらかです。

  • 演出家が求めているものが間違っている
  • 外を繕えていない

前者であればもうどうしようもないので、うまく流していくか苦しみもがくかしかないのですが、多くの場合は後者です。

後者の改善方法として、キャラクターの研究(設定の深掘り)は決して悪いことではないのですが、結局それを外に表現できなければ意味がありません

研究しても変わらずダメ出しを受け続け、嫌になってしまうのがよくあるパターンです。

後者のダメ出しを受ける人の多くは、単純に「見せかける」テクニックが足りていません。

「見せかける」テクニックと言っても、これは基本的な演技のテクニックと変わりなく、喋り方や動き方が、お客さんからどう見えているかということになります。

つまり、単純に「上手い」演技ができていれば、演出家を騙すことができ、「もっと役になりきれ」というダメ出しは出にくいのです。

いろいろと書いてきましたが、大事なことは結局、役になりきるためにキャラクターの深掘りをするのではなく、単純な演技力を上げていく努力をしたほうが良い、ということです。

単純な演技力とは何か、ということについては、次の記事も参考にしてみてください。

5.まとめ

人物をつくるのは膨大な過去です。

それをすべて自分のものにして、その人物になりきるというのは不可能なことです。

そもそも演劇とはほとんどがハリボテなので、演技もハリボテで良いのです。

外側を繕う演技、つまり、客からの見え方を意識した、単純な演技力を上げることが重要です。

「役になりきれ」というダメ出しを受けた場合は、このことを意識していきましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。