【演劇】演技のコツ:内側からか、外側からか

演技のコツ

演技しているときの感情って、どうやってつくったらいいんだろう…。

外側からアプローチしていくのがおすすめだよ。

このページでは、演劇(ストレート)における演技の上達のコツを解説しています。

この記事の結論としては、「演技は内側(感情)からではなく、外側(見え方・聞こえ方)からつくる方が良い」ということになります。

感情の込め方に悩んでいる方などの参考になるかもしれません。

具体的な考え方を説明していきます。

1.「感情をこめろ」というダメ出しの意味

演技をしていると、「もっと感情を込めろ」や「感情をつくれ」というダメ出しを受けることがあります。

この言葉の意味としては、例えば、「演じている役が悲しい気持ちのときには、本当に悲しい気持ちになり、心から涙を流すような演技をしろ」ということであったり、逆に「役が嬉しい気持ちのときには、本当に嬉しい気持ちになり、心から笑顔になるような演技をしろ」ということでしょう。

感情をつくってから表面に出す、つまり内側から外側への演技と言えます。

2.内側からの演技が難しい理由2つ

しかし、内側から外側への演技というのは非常に難しいです。

決して間違ってはいないですし、できたら凄いのですが、プロレベルでなければこれを目指すのは茨の道です。

その理由は2つあります。

  1. 感情が追いつかないから
  2. 冷静に演技ができないから

1つずつ説明していくよ。

1.感情が追いつかないから

演劇は、現実と比較すると、非常に目まぐるしくシーンが変わります。

現実での会話には、無駄な言葉や間などがたくさんありますが、演劇の中の会話にはほとんどありません。

演劇は基本的に、常に誰かが何かしら喋っていて、どんな登場人物も言葉に詰まることなくすらすらと台詞を喋ります。

また、現実では時間の経過は当然一定のペースで進みますが、演劇では1分後にはもう次の日になっていたり、何年も前に戻っていたりします。

つまり、演劇は現実と比べて、時が無駄なく進み、激しく切り替わるのです。

映像作品や漫画ほどじゃないけどね。

そうすると、感情が追いつかないという問題が出てきます。

内側から外側に出すまでには、感情をつくって表面に出すというステップがありますが、お客さんから見えるのは表面に出したものだけです。

どんなに内側(感情)をつくっても、お客さんから見えなければ、何もないのと同じです。

この「何もない」という状態がタイムラグとなり、何も感情がない台詞や動作が生まれてしまって、冒頭のダメ出しにつながってしまうのです。

さらに、そうしているうちにあっという間に次の台詞・シーンに移ってしまい、どんどん遅れてしまいます。

プロの役者は、一瞬で感情をつくれるからタイムラグがないんだね。

2.冷静に演技ができないから

仮に、内側(感情)をつくって外側(表面)に出すのをタイムラグなくできるようになったとしましょう。

例えば、難しい試験に受かったというシーンで、嬉しい気持ちをつくり、満面の笑みで飛び跳ねながら叫ぶことができたとします。

このとき、跳ね回って舞台セットにぶつかってしまったり、顔が後ろに向いてしまったり、キーンとなるような声で叫んでしまったりしてはいけませんよね。

空間を把握して動き、表情がわかるように客席に顔を向け、正しい発声方法で台詞を発する必要があります。

他にも、演技中に意識しなければならないことはたくさんあり、それだけで非常に神経を使います

そういった基本テクニックがちゃんとできていないと、どんなに良い感情表現をしても、演技のレベルが低く見えてしまいます。

もし、感情が強く入りすぎてしまうと、基本テクニックに向けられる意識が狭まってしまいます。

あくまで内側はある程度冷静に、客からの見え方を意識していなければなりません

そのため、先に内側をつくってしまうと演技が難しくなってしまうのです。

冷静といっても、無感情というわけじゃないよ。

コントロールできることが大事なんだね。

3.外側からの演技が良い理由2つ

内側からの演技が難しいということを説明してきたので、当然、外側からの演技をするべきだという話になります。

外側からの演技とはどういうことかというと、まずお客さんに見える部分(外側)をつくって、その上で感情(内側)をつくっていくというやり方です。

ここでの「お客さんから見える部分」とは、姿勢や動作、声量、滑舌など、演技における基本テクニックのことです。

外側からの演技が良い理由は次の2つですが、これは内側からの演技が難しい理由の真逆になります。

  1. 客からすぐに見えるから
  2. 冷静に演技ができるから

外側は、内側と比べれば簡単につくることができます。

「嬉しい表情をして」と言われるのと、「嬉しい気持ちになって」と言われるのでは、前者の方が簡単だと思いますよね。

そして、お客さんに「嬉しい感情」が伝わりやすいのも前者です。

内側がどうであれ、ぱっと外側をつくって、すぐにお客さんに伝えるのが良いということです。

また、内側はある程度冷静でいることで、空間把握や発声法など、基本的なことを疎かにせずに演技できます。

基本は大事だよね。

ただし、注意すべき点があります。

それは、その感情であることを、外側にはっきり表現することができないといけないということです。

たいていの場合、表現というのは自分が思っているより伝わりません。それを理解していないと、自分では表現しているつもりでも外側に出てなく、タイムラグどころかいつまでたってもお客さんに伝わらなくなってしまいます。

そうすると、「あ、感情がこもっていないんだな」と勘違いしてしまい、内側からの演技をしようとしてしまうのですが、先述のとおりそれは非常に難しいことです。

ちゃんと、お客さんから見て感情がわかるような演技ができているかをチェックするのが大事です。

4.外側から内側へ

外側をつくるのが大事だと書きましたが、内側はどうしたら良いのでしょうか。

基本的には、外側さえできていれば内側はなんでも良いと思います。下の記事でも書きましたが、演技はハリボテで良いのです。

ただ、内側にある程度の感情があれば、外側に表現しやすくなるというのも事実です。

外側と内側は分離して考えるのではなく、外側から内側にもっていくと考えます。

先ほどと同じ例を出しますが、難しい試験に受かったというシーンで、「満面の笑みで飛び跳ねながら叫ぶ」という外側の表現ができたとします。

どんなに内側が冷静でも、そんな表現をしていたら、本当に気持ちが喜んでくるのではないでしょうか。

そこまで大げさな例ではなくても、落ち着いている状態のとき、「イエーイ」と大きな声で言ってみると、なんだか楽しくなってきたりします。

やる気がでないとき、「よしっ」って言うとちょっとやる気が出るかも。

つまり、外側をつくることで、内側もつられてつくられていくのです。

ここには、先述した「内側から外側へのタイムラグ」の真逆の、「外側から内側へのタイムラグ」が発生します。

先ほどとの違いは、外側ができていれば、感情はすぐにお客さんに伝わるのだから、お客さんにとってそのタイムラグはあまり関係ない、つまりデメリットが少ないということです。

また、内側は外側につられていくので、「こういう感情になろう」と意識しなくても勝手に感情がつくられていきます。難しく考える必要がないのです。

まず外側をつくってしまい、お客さんから見て問題ない状態をつくったうえで、内側を自然とつくっていって演技をより良くしていく、という流れができると良いですね。

5.「感情をこめろ」というダメ出しを受けた場合

始めの方で説明した、「感情をこめろ」や「感情をつくれ」といったダメ出しを受けた場合でも、外側から内側への演技のつくりかたをすれば問題ありません。

他人の感情がどうかなんて、普通の人間にはわかるはずがないのですから、そもそも「内側をもっとこうしろ」と言われる筋合いはないのです。

ダメ出しとしては、「感情を(内側に)こめろ」ではなく、「感情を(外側に)表現しろ」と言うべきです。

もちろん状況によっては例外もあるよ。

外側を上手くつくるのは、言ってしまえばお客さんを騙すことです。それと同様に、ダメ出しをしてくる演出家を騙せば良いのです。

6.まとめ

演劇は目まぐるしくシーンが変わり、演技中は様々なことを意識しなければならないため、感情(内側)を先にコントロールする演技はとても難しいです。

見え方(外側)を先にコントロールするほうがやや簡単で、しかも、お客さんにタイムラグがなく伝わります

また、にこにこしていれば自然と良い気分になってくるように、外側をコントロールすれば、自然と内側も感情が乗ってきます。外側と内側を完全に分離して考えるのではなく、外側から内側へと考えると、より良い演技ができるようになります。

演技は感情をこめなければならない、という先入観は置いておいて、まずは外側をつくれるようにしましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。